自筆証書遺言に関する裁判例あれこれ
氏名について
1.
戸籍上の氏名「○○正雄」が、遺言書で「○○政雄」と記載⇒有効
遺言者が生前自己の名前の表示として「政雄」を用いたこともあったこと等を指摘した上で、「○○政雄」の表示は遺言者の氏名の表示として十分であるとし遺言を有効とした。【大阪高裁昭和60年12月11日】
2.
戸籍上の氏名ではない通称で署名⇒有効
自筆証書遺言に氏名の記載を要するのは遺言者の何人であるかを明確にするためであるから、遺言者の何人であるかが明確になる以上、必ずしも戸籍上の氏名でなくても足りる。【神戸地裁昭和47年9月4日】
※雅号、芸名、ペンネーム、屋号等でも足りる場合がある。
押印について
3.
「印」を認め印で押印⇒有効
遺言書に実印の押印は要件ではなく、認め印でもよい。【東京高裁平成5年8月30日】
4.
押印に代えて花押⇒無効
我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。【最高裁平成28年6月3日】
※花押:文書の末尾に記すサインの一種。中国から伝わったと言われ、日本では平安時代から江戸時代にかけて、貴族や武士らに広く使われた。現在は、閣僚が閣議決定の書類などに毛筆で記すのが慣習となっている。
日付について
5.
日を「吉日」と記載した⇒無効
世上一般に「吉日」とする日は、1か月中特定の1日ではなく、更に各人が、主観的に或る日を「吉日」とする場合もあることを考えれば、「吉日」の記載をもっては、当該の月の暦日が特定せず(以下中略)、本件遺言は、日附の記載のない無効なものといわなければならない。【高松高裁昭和40年6月10日】
6.
日付の記載が複数ある⇒後の日付の遺言として有効
一通の自書した文書に補充、訂正を加えてゆき、これを仕上げた段階でその日を日付として遺言書とすることも当然許されるものというべきである。【東京高裁昭和55年11月27日】